最近、柄にもなく恋愛小説を読んでいる

 

 

 

 

深夜

部屋の電気を消した真っ暗な部屋で映画を観ていた

夏の終わりだからか、どんよりとした部屋の空気は全て私のため息で埋め尽くされているかのような閉塞感が漂っている

しかし、窓を開けて外気を入れる気力もなく、ただぼうっと明るい画面を眺めていた

 

この映画を観るのは何度目だろう

夢のように美しい女の子が主人公で、暴力的なシーンも程よくありバッドエンドで終わる

酩酊の隙間を埋めるのにこれ以上の映画を私はまだ知らない

 

今は一体何時くらいなのだろう

この季節で薄いカーテンの向こう側も真っ暗なことを考えれば、まだ4時は回っていないだろう

もう一本くらい飲んで寝るか

そう思って冷蔵庫から次の缶チュウハイを取り出し、伸びきった爪を痛めながらプルタブを開けたところで携帯画面が着信を知らせていることに気づいた

 

友達の少ない私に、しかもこんな真夜中に電話をかけてくる人は君しか思い浮かばなかった

「もしもし」

「・・・起きてたんだ」

私の生活リズムなんて、お風呂に入るタイミングまで把握しているくせに

「今ちょうど寝ようとしてた」

「そっか。タイミング悪かったかな」

「ううん、大丈夫」

彼はふっと笑ってからいつものように彼女の愚痴を話し始めた

彼が後ろめたいことを言う前の本人も意図していない細かい笑顔が、どのようにその端正な顔に表れているのかが鮮明に思い出されて嫌だった

「今日残業で遅くなったんだよ。月末は決算のこともあるから遅くなることなんてざらなんだけどね、ほら、俺がやらなきゃだしそういうの。毎月のことなんだよ。それでもなんか最近あいつの調子が悪いみたいでさ、家帰ったら真っ暗で物音がしてなかったわけ。いつもならリビングでテレビでも観てるような時間なのに。それで怖くなって家中探したら、あいつお風呂場にいてさ、空っぽの湯船の中でぼーっとしてたの。それだけならまだ良かったんだよ。あいつ自分の手首切ってて。いや、そういうくせがあるのは知ってたんだけど、実際に目にするときついよ。真っ赤で暖かいんだよ。血って。知ってた?意識はあるはずなのに何度声をかけても反応しないから急いで救急車呼んで。俺救急車なんて初めて乗ったからどうすればいいかわからなくてさ。本当は今も待合室みたいなところで待ってなきゃいけないんだけど、俺病院なんて嫌いなんだよ。白くて、蛍光灯が眩しくて、不健康で汚い人間がいっぱいいて、そういうのお前ならわかってくれるかなと思って電話したんだよ。わかるだろ?そういうの」

 

「私も病院は嫌い」

 

「だろ?お前ならわかってくれると思ったよ。俺あしたも朝早くてさ。もう帰りたいくらいなんだけど、あいつをおいてはいけないんだよね。すごい綺麗だったんだよ。不思議だな。人間って死に近づくと色気が増すって本当のことだったんだな。手首から血を流してるあいつ、いつもとは違う雰囲気まとってて、なんていうのかな、開ききった花の香りがしたんだよ。あ、ここが限界なんだって誰しもがわかる感じ」