永遠の名作「NANA」に寄せて vol.1

 

 

 

 

誰もがタイトルくらいは耳にしたことがあるであろう漫画

 

映画化もされ、ヴィヴィアンのハートジャケットやロッキンホースなど、漫画の中の登場人物のヴィジュアルに影響を受けている人も少なくないはず

 

私も死ぬほど欲しい。けど高いし希少( ;  ; )

 

 

最近、バイト先のブックカフェに来てくれたお客さんのお財布がヴィヴィアンだったので、NANAの話をぶっこんでみたら

そのお客さんもNANAの影響でヴィヴィアンが好きらしかった

 

ヴィヴィアンは矢沢あいにちょっとお金渡したほうがいいと思う

 

 

 

 

 

登場人物みんながメンヘラで、愛に飢えていて

かといって与えられた愛を素直に享受できないひねくれ者ばかり

 

そんな伝説の漫画「NANA」について

21巻ぶん私が好き勝手に独断と偏見を存分に交えて、語り尽くしていくブログを今日から書いていこうかなと思います

完全に自己満足だし、ネタバレも大いに含みます。悪しからず

 

 

 

 

 

 

1巻は2人のNANAについて少し語られる程度

わかりにくくなるのでピンクのふわふわを漢字で「奈々」

ゴシックでトゲトゲの方をカタカナで「ナナ」と表記することにする

 

 

 

 

物語は奈々が不倫相手をしていた浅野さんから東京転勤を理由に振られるところから始まる

 

 

 

ついさっき読み終えた金原ひとみの新刊

「アタラクシア」も不倫にズブズブな人たちがたくさん描かれている

めちゃくちゃ面白いので是非買って欲しい

 

 

 

 

浅野さんに振られて傷ついた奈々は

新たな出会いを期待しつつ

親友の淳ちゃんと同じ美術専門学校に進学する

そこで淳ちゃんの知り合いでもあった後の彼氏となる章司と出会う

正直、奈々と章司の組み合わせはこの漫画の中で1番嫌いなので何も語りたくない

 

 

 

 

 

少し話がそれるが、人の魅力は余白にあるという話をよく聞く。

外見にも内面にも言えることだ

NANAを読んだことがある人は割と早い段階で

気づくと思うが、奈々には人間として生きていくにあたって、恐ろしく何かが欠けている。

どうしようもなく思慮が浅いのだ。

 

誰もが人生で一度はこういう人間に出会うことがある。そして大抵そういう人間の横には

その欠陥を補うことに喜びを、自分の存在意義を見出すタイプの友達がいることが多い。

 

それが奈々の場合、淳ちゃんだ

昨日、沼田まほかるさんの

彼女がその名を知らない鳥たち

という本を読み、ついでに今話題の人、蒼井優が出演している映画も観た

余白と過剰が重なり合う典型のような

恋愛模様が描かれていた

本も映画も面白かったので時間があればぜひ

 

 

 

 

章司と奈々の馴れ初めについて唯一触れておきたいのは「浅野さん遭遇事件in東京」くらい

この場面は、なぜかよくわからないが

奈々、章司、淳ちゃん、京助(淳ちゃんの彼氏)が受験結果開示のためか東京にいるところから始まる

 

 

この4人は揃って東京の美大を受験し

淳ちゃんと京助は見事合格

章司と奈々は全落ちという結果に終わった

 

 

京助について触れるのを忘れていたが

章司の友達で奈々たちの地元にある美術専門学校初日に淳ちゃんと奈々と初対面し、

その日のうちに淳ちゃんと交際スタート

まあまあ頼り甲斐のある男性くらいしか言うことがない

 

 

 

上京への夢が断たれた章司と奈々

章司は春から東京で美大の予備校に通う旨を奈々に話すと、

奈々はみんなと離れるのが嫌という理由で、

「フリーターでもなんでもいいから来年から東京で暮らす!」という思いを章司にぶつける

 

すると奈々の目標の定まらない浅はかな上京理由にかあっとなった章司と喧嘩になり、

奈々は東京という大都会の中を1人であてもなく彷徨うことになる。

 

 

 

 

そこで突如現れるのが、

かつて不倫相手となった浅野さんだ。

この偶然の出会いに奈々は救われ、

心を落ち着かせ、冷静にみんなで宿泊しているホテルへ戻ることができた。

 

 

 

この出来事から読み取ることのできる唯一絶対の事実、奈々は”持っている”のだ

 

運命を自分の意思とは関係なく味方につけてしまう、そんな力が彼女にはある。

 

女の子なら、いや、男の人でも奈々の強運には

羨望の眼差しを向けざるを得ないのではないか

 

ずるい 圧倒的にずるい

 

そんなにずるいのに彼女は常に自分に足りなさを感じているのだ

 

 

人から見た自分と自分が思う本当の自分は

違うことがほとんどだ。

金原ひとみの小説を読んでいるとつくづく思う

(しつこくてごめんなさい、好きなんです)

あなたが思うあの子の羨ましい部分が

あの子にとってはコンプレックスだったりする

しかしコンプレックスだとしても羨ましいものは羨ましい

あなたの嫉妬の対象に本人が無自覚なのも

時にあなたのイライラを募らせる原因になったりするだろう

人間ってどこまでも難しい

 

 

 

話を元に戻そう

まあ結局この東京の夜に奈々と章司はくっつく

でもこの2人の恋愛は、

特定のコミュニティの中で

飛び抜けて顔の良い男女がお互いの顔の良さに

なんとなく共鳴して良い感じになり

一緒にいるうちに情が湧いてくる

そんなタイプの恋愛に過ぎない気がする

奈々が恋に恋する乙女の典型的なタイプだからこそ長く続いたと私は思っている

このカップル好きじゃないんだよな

 

 

 

そして2人が遠距離になったところで一巻での奈々の出番は終わる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして舞台は変わり、「ナナ」の地元

 

ブラックストーンズ、略してブラストのライブシーンから始まる

何を隠そう 

私はナナが登場人物の中で一番好きだ

花に例えると赤いバラ

棘に覆われた外見からは想像のつかない孤独、虚無

1人で立っているように見えて

その足元は常にぐらついている

強く見えて弱いが、

その危うさがさらにナナの魅力を

引き立てている

 

 

 

1巻では主に、ブラストの結成、ナナと蓮の馴れ初め、蓮のトラップネストへの引き抜き、蓮の上京について語られる

 

 

 

好き過ぎてどこから話せば良いのかわからない

 

 

まず、私が1巻で1番好きなナナのセリフ

蓮とナナが初めて出会った場面

 

 

「それは恋とかときめきだとか

   甘い響きは似つかわしくない

 嫉妬が入り混じった羨望と焦燥感 

    そして欲情」

 

 

 

 

何これ!!ずるい!!

このセリフで「溺れるナイフ」の

夏目とこうちゃんが出会ったシーンを

思い出したのは私だけじゃないはず

特別な2人が出会う瞬間はいつもこうなのか?

カートとコートニーの目があった瞬間もこんな感じだったの?

(ただの椎名林檎ファン)

だとしたらずる過ぎないか?

地球に生まれては消えていく人類のうち何人が

生きている間にこんな感情を生で体験できるのだろう

平凡を具現化したような私には一生こんな出会い訪れない気がする

 

 

恋なのに、恋愛なのにその入り口が羨望と焦燥

この人を手に入れたいという思い

眩し過ぎて目が当てられない

 

 

 

こんな特別すぎる2人の愛の巣は”倉庫”

これもまたロマンチックすぎる

 

 

 

映画の中でナナと蓮の入浴シーンがある

灰色の倉庫の中央にぽつんと置かれたバスタブ

その泡だらけのバスタブに浸かり

お互いを洗い合うナナと蓮

愛し合っているはずの2人の間に漂う

言い知れぬ虚無が現れている気がして

めちゃくちゃ良いカットだと思っている

 

 

 

そしてその虚無を象徴するかのような

ナナの言葉

 

「蓮と暮らすこの日常がすべて夢の中の出来事に思えたりする」

 

「それまで卑屈に生きてきた私には

   蓮は眩し過ぎたから 

   どんなにあがいても

   未だに届かない気がするよ」

 

 

 

いや届くんだよ!? 

物理的にはいつでも届くの

それでもここには実体がない気がしてしまう

思い合っているはずなのに

 

これぞメンヘラ 好きです

 

 

 

 

そして物語は進み蓮がメジャーデビューするトラップネストのギタリストに引き抜かれ、ナナを置いて上京することに

 

そんな2人のお別れのシーン

ここはめちゃくちゃ泣ける

 

 

ナナは多分ついて生きたかったんだよ

ついてこいって、

ナナの歌でギターが弾けなくても

せめて手の届く場所にいてほしいって

蓮に言って欲しかったんだと思う

 

 

でも言って欲しかっただけで

実際にそう言われてもその手を振り払うくらい

ナナはどうしようもなくプライドが高い

蓮もヤスもノブもそれをわかってた

だから2人はしばしの別れ

 

 

 

このお別れの後のナナのセリフも意味深

 

「レンが言葉にできない寂しさを

 夜毎、私の中で吐き出していたのを

   感じていたから」

 

 

 

もう圧倒的虚無!!!

毎晩、隣に寝ている女の人にさえ寂しいと言えないプライドの高さと心の穴の大きさよ

 

 

 

 

私の大好きな「渇き」という映画に小松菜奈演じる加奈子っていう女の子が登場するんです

 

その物語はありとあらゆる人たちが加奈子に翻弄されていく様子を描いたものなんだけど、その劇中である不良が加奈子についてこう語るの

 

「あいつはでかいんだ。欠けた穴が。

   俺たちよりも。

   あまりにもその穴は深過ぎて、

    周りの人間を取り込んでしまう。」

 

 

まあその前後にも良いセリフがあるんだけどそれはそれで渇きをご覧ください。

 

何が言いたいかというと、

余白がその人の魅力になるように

虚無に惹かれてしまう人種も世の中にはいる 危ない

 

余白なら埋めることができるけど

虚無には際限がないから、どうにもならない

どうにかしようとすると自分が穴に落ちる

どこかのアリスみたいに

 

詳しくはこのミステリーがすごい!を受賞した原作「果てしなき渇き」もぜひ一緒にお楽しみ下さい

 

 

 

 

 

まあこんな2人だから

一筋縄ではいかなかったんだよね

ありがとう拗らせてくれて 

という気持ちでいっぱいです

 

 

 

ここまで書いて意外と時間かかったし

疲れました

 

どうでもいいんだけど「意外」と「以外」

を使い分けられない人無理

 

 

 

今読み返してみても全然まとまってないし

読みにくいけどお許しください

少しでも伝わるようちょくちょくなおすつもりではいます

気が向いたらまた書こうっと

ヤスとノブについてもちゃんと語りたい

 

 

 

 

おやすみなさい

 

 

 

 

 

「恋の罪」園子温

 

 

園子温監督の「恋の罪」を観ました。

ごそごそと呟きたくなったのでブログ書きます

 

読点を置くのが面倒なのでやめます

 

 

 

先日とある知人におすすめされ

面白そうだなと思い、話題づくりも兼ねて

久しぶりに丸々一本観たことのない映画をみた

 

この映画をお勧めしてくれた知人は結構変わり者

まあ園子温を人におすすめする時点で

あまり穏やかな感性の持ち主ではない

 

 

あらすじなどはウィキペディア

ヤフー映画なので好きなだけ読めるので

わたしの感想みたいなものをつらつらと

 

 

 

東京都心部が生活圏内の21歳にとって

売春はわりと身近なものだったりする

渋谷や原宿で遊べば嫌でもラブホテルが目に入るし、SNSで売春(よく言えばパパ活)を生業としている方をよくみたりしている

まあ後者は少数派なのかもしれないが

 

 

自分の身体に値段がつくって感覚面白い

それが言ってしまえば自分の価値になる

値段をつけるのは自分かもしれないし

相手かもしれないし仲介業者かもしれない

でも均衡価格だから売れているわけで

買い手も売り手も納得した値段イコール

自分の価値になることは変わりないと思う

 

 

数字には魔法の力があるよね

自分についた値段にやきもきするのは

素人なのかもしれないね

もしも私だったらと考えるとすると

相場がわからないので

つけられた値段の相対的な位置が分からないが

安いなと感じたら自信喪失する

高いと感じたらそれでもたぶん自信喪失

自分にはこれほどの価値があると思っていないのに、市場ではこの値がつく

その幅に病んでしまいそう

 

 

でも多分強い

自分の値段を一度知ると強くなれる気がする

どこまでが守備範囲かわかるからか

数字という武器を手にしたからか

なぜかわからないけど強くなれそう

 

 

 

一度強くなってしまったら

もう元の場所には戻れない

 

強くなるにはすごくすごく

心を捨てなきゃいけないかもしれない

心は形状記憶するものだから

水みたいにうまくはいかないから

きっと大変なんだと思う

 

 

心が元に戻ろうとするたびに

必死に抑え込んで誤魔化して騙して

ぐちゃぐちゃにかき回して

痛くても寂しくても歯を食いしばって

またぐちゃぐちゃにして

 

これを繰り返して繰り返して

元の心に戻らなくなったときにはもう

強い

 

 

 

 

 

やぶれかぶれ

 

もう縦も横も右も左もわからないけど今すごく幸せだなと感じていた。

「ビールあげる。」

私の寝ている斜め右上辺りからさやかの声がする。

「うん。」

ビールを受け取るために体を起こす。

「なんかさ、星って綺麗なんだよね、多分。」

そんなさやかの声につられて受け取った缶ビールを煽るついでに空を見上げてみる。

こんなドス汚い新宿のど真ん中で綺麗な星なんて見れるはずもなく、ただただ真っ黒な空が私たちの頭上を覆っていた。

「綺麗な星、見たいね。」

「見に行く?」

「え?」

そんな答えがさやかから返ってくるなんて思ってもいなかったからしばらく呼吸以外の動作を忘れてしまった。そんな私を見てさやかが笑った。

「冗談だよ。このまちから離れるなんて怖くて無理。」

「そうだよね。」

 

少しの落胆を渇いた笑い声で隠し同調する。この街にいればもしお金がなくなって部屋を追い出されたとしても誰かが拾ってくれるだろう。この体さえ使えれば。誰かがご飯を食べさせてくれるし、私たちが女の子で有る限りただでお酒はいくらでも飲める。世の中に存在する男という人種は若い女の子にご飯やお酒をご馳走したくてたまらないらしい。

 

この街には独特の匂いがあって、多分その匂いにはすごく中毒性があって、一度その匂いにやられてしまうともう二度とそれなしでは生きていけなくなるんだと思う。春を感じさせる生ぬるい風が頰を撫でていく。ここにきてどのくらいの年月がたったんだろう。私の家族はまだ生きているのかな。生きているとしたらどこにいるのかな。そこまで考えると頭が痛くなったからやめた。なにも重く考える必要はない。ちやほやされる限りここで女を売ればいいし、ちやほやされなくなったらその辺の男を捕まえて退屈に主婦をやればいいんだ。適当に子供を産んで、ヒステリーをおこしながら子供を育てて独り立ちさせて「やっと静かになったわ。」とか言いながらかつて悪さという悪さを一緒にした友達とお茶をしながらとりとめのない話をするんだ。ありきたりで、中身がなくて、よくある人生。でも今はまだ若いから。まだまだ騒ぎ足りない。もっと無茶して命削って危ないこともして、運が良ければ主婦なんかになる前にどこかで殺してもらえるかもしれない。それか睡眠薬と酒の飲み合わせが悪くてころっと死んじゃうかも。なんて考えてたらなんだか笑いがこぼれてきた。

「由美なに笑ってんの。」

さやかが気味悪そうに聞いてきた。

「なんかもっと騒ぎたいなと思って。」

「それ私も思ってた!クラブいこうよ。」

土臭い地下のクラブで汗をかいたらこの頭痛もなくなるかもしれない。

「いいね。いこ。」

立ち上がると同時にさやかと手を繋ぐ。とても自然に。いつも一緒にいるから二人の全ての動作が等しく溶け合う。その感覚がすごく心地よくてこの手があればどこまででもいける気がした。

 

 

 

まいり

 

 

大きい湖のある街で生まれ育った。

休日になると湖に住む白鳥や黒鳥、鯉に餌をあげたりスワンボートに乗りに来る家族連れで賑わうような商業用の湖だ。

私たち地元の人間はなぜだかその湖にとても愛着を持っていて小学生の時は家族と、中学生になると友達と一緒に訪れてはどこの地方にもあるような特産と謳われているソフトクリームを買って舐めた。

高校生になってからは少しばかり楽しさが増したのかもしれない。

緩くなった門限をいいことに夜な夜な湖のほとりに集まってはコンビニでびくびくしながら買ったお酒というやつをみんなで回しながら飲んだ。

一度誰かが真冬にディスカウントショップで叩き売りされていた花火をまるで悪いことをしているかのような顔で持ってきて異様な高揚感の中みんなで火をつけたことがあった。田舎だったから別に警察が飛んでくるわけでもないし花火の明るさが届く範囲に誰かが住んでいるわけでもなく、私たちのささやかなスリルは私たちの作った輪の中で燃え尽きていった。

 

 

 

 私は退屈だった。みんなは地元でそこそこ名が知れている不良の真似事グループの一員であることに誇りを持っているようだったけど、所詮は真似事でしかない。

田舎の大人たちは「やんちゃな子供」が大好物みたいで町内会のバーベキューなんかが開催されると

「俺らの若いころを思い出すな。」

なんて赤ら顔したおじさんたちが馴れ馴れしく肩を組んできたりもした。

「ほら、内緒だぞ。」

とお酒を差し出されることもあった。お酒の美味しさなんてわからなかったけど多分喜んだ方がいいんだろうなと思い、

「やっぱり昔ヤンチャだった大人はわかってるね。」

なんて女子高生の特技でもあるいたずらな笑顔で飲めない缶ビールを受け取った。

 

 

 

 こんな連鎖がここでは途切れることなく続いて行くんだろうなとそれが私のいるべき運命のように感じ取っていたので、外の世界を知らなかった私は一切のためらいもなく高校卒業後も地元にいるとばかり信じていた。

他の選択肢を知らなかったんだ。

 

 

 クラスのガリ勉くんは何人か東京の大学を受けるようで先生たちもそれをなんだか大層な事のように思っているみたく、放課後に教室を解放したり、授業時間中もガリ勉くんたちがイヤホンを耳にぶっ刺して授業を聴く振りさえせず赤くて分厚い本とにらめっこしているのをそれが自分の功績であるかのように嬉しそうに眺めていた。

 今まで散々バカにしてきた奴らだったけれど彼らは特別なのかと大人たちの空気からなんとなく察しがついた。

つい数ヶ月前までは私たちが特別だったのにいつのまにか自分に劣等感が塗られていることに驚く。

この数ヶ月のうちに私たちの周りに何が起きたんだろう。

 

 

 

 ある日の学校からの帰り道、いつものように湖沿いを歩きながら一人で下校していると一箇所だけとてつもなく光っている場所があった。

その光は今まで見たことのない種類のもので、真冬の花火とも田舎臭いパチンコ屋のネオンとも全く違った。

比較対象がなくともその光はこの世の中でも最上の種類のものだと本能が理解した。

眩しくて触れなくて目の前にあるのに届かなくて、その光を眺めているだけで嫉妬が私の体内に渦巻きはじめ、それでも対抗する力を持たずに羨望を捧げるしか私には術がなく、そんな自分に焦燥感を覚える。

「ああ、どうしよう。見つけてしまった。」

そう思った。

「君、地元の子?」

そう誰かに話しかけられてはっと我にかえる。

目の前を見ると全身黒ずくめで清潔感とひげを見事に共存させたお兄さんが私に話しかけているようだった。

「はい、住んでます。」

怯えながら質問に答えるとお兄さんは優しそうに笑ってくれた。

「こんな可愛い子田舎にいるんだね、もったいないな。ちょっと撮影みてく?」

お兄さんが指をさした先を見てみると、それこそがさっき私の心をぐちゃぐちゃに引っ掻き回した光の正体だった。

あの光はどうやら今私に向かって天使の微笑みを投げかけてくれている女の人から発せられたもののようだった。

軽やかに私の方へと飛んでくる女の人はモデルという職業をしていて、今日は写真集の撮影で東京からはるばるこんなど田舎に降り立ったらしい。

一目でわかった。

こんな輝きを持った人間はここには絶対にいない。

「高校生?」

天使が言葉を発した。

「あ、はい。」

「楽しそうだね。」

正気だろうか。これだけの光を持っていながら、こんなさびれた町に住む私が楽しそうに見えるはずがない。

「生まれてからずっとここです。町から出たことなくて。」

私のせめてもの抵抗だった。

「そっか。私はずっと東京だったから、田舎にちょっと憧れるな。」

そう言い残して天使は黒い機械の中心に戻っていった。

そこから家までどうやって帰ったか覚えていないがなんとかたどり着いて、家に着くなり台所で夕飯の支度をしている母とリビングでくつろいでいる父に宣言した。

 

 

 

「まいり、東京の大学に行きたい。」

 

 

 

 

 

散る

 

 

そして目を背けていた現実

 

 

あなたにとって私は

毎年新しくて綺麗な花を咲かせる桜のようなものだったんだと

咲いたばかりの花は言うまでもなく美しいし、

その花びらが宙を舞う様にも風情がある

けれど地面にへばりついて茶色くなったそれは

もはや桜とは呼びたくもない

誰の目にも止まらない

賛美も侮辱も受けられない

ゴミとさえ認められず誰にも触れられることなく

ただただ自然に淘汰される日を待つのみ

為す術もなく時がすぎるのを静かに

 

 

今年の花は綺麗ですか

背が高い子が好きって言ってたね

私より上手にあなたを愛せてますか

将来を語り合いながら眺めた東京タワーの

あの優しい灯りはもう何も教えてくれません

 

 

本当は何もかも気づいていたのにな

覚悟だってできていたはずなのに

ふたりで真夜中に辿った道のりを

今でもひとりでなぞってしまう

寂しい左手は季節外れのホットコーヒーで

 

 

幾度となく声を聞きたくなってしまう私の弱さが悔しくて

適当な友達を誘い出しては

埃の匂いのするナイトクラブで

アルコールに身を浸し狂ったように踊りまくる

私は今楽しんでいるんだ

私しか持ち得ない若さを存分に使って

 

 

まぶたの裏にちらつくあなたの影を

少しでも遠ざけようと

品のない音楽に身を乗せる

 

 

心配なんてしないでください

あなたにあって私にないものなんて

どこにもないはずだから

 

 

大丈夫

多分、もう少しで忘れられます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前4時、渋谷

 

 

序章

 

 

「おいで。」

 

 

 

 

そういって手を差し伸べてくれた彼は

どこか気だるそうで、

少し俯いてあくびを噛み殺していた。

 

 

 

 

血管が蒼く浮き出るほど白くて細い彼の手は

今にも消えてしまいそうなほど儚かったから、

消えて無くなっちゃわないうちに急いでつかまえる。

 

優しく握り返してくるちょっとの重み。

 

8月も半ばだというのにひんやりとしている。

 

 

 

この愛おしいほどに無機質な手は

私をどこまででも連れて行ってくれた。

 

 

 

 

 

手を繋ぎながら勢いよく乗り込んだタクシー

お酒のせいかいつもより彼の顔が優しくて、

それがどうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

待ち合わせはいつも日が落ちる頃だったから

2人で見る景色はいつも薄暗くて、

その暗さが私たちの頭の隅っこに追いやられた

後ろめたさをそっと包んでくれた。

 

 

 

 

 

桜の花は寿命が短いからこそ美しいらしい。

 

 

 

あの恋もいつか終わるって、

永遠じゃないって気がついていたけれど

そんな現実は知りたくなかったから、

つまらないことを口走ってしまう前に

彼が選んでくれたワインで口を満たす。

 

慣れない苦さに大人を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

大学3年生、21歳のあの夏、

あなたという存在だけが私の真実でした。

 

 

 

 

六本木交差点、午前2時